重要事項説明書のトラブル

アドバイス

 

 


 
 

購入した建売住宅が地区計画に定める最低敷地面積を満たしていなかったため再建築できなかった

◎事案の概要
Aさんは、売主業者から、土地(90㎡)付建売住宅を買い受ける旨の売買契約を締結し、引渡しを受けました。この住宅は、建築基準法68条の2に基づく条例による地区計画区域内の制限が定められた土地区画整理事業施行区域内にあり、市条例で「建築物の敷地面積は、130㎡以上でなければならない」と定められていました。
売主業者は、前所有者から本件土地を買い受けた後、直ちに建売住宅として転売しており、建築確認申請時には、最低敷地面積に足りない分は隣接する土地の使用承諾を得たとして、条例の面積要件を整えて建築確認を受けていました。
しかし売主業者は、市条例の存在および隣地を使用しての建築確認について、Aさんに何ら説明することなく売買契約を締結しました。Aさんは、引渡しから8ヵ月後になって、市条例があるため現状のままでは再建築ができないことを知り、この売主業者に買い取りを求めたのですが拒否されました。
そこでAさんは、業者の処分等を求めて行政庁の宅建業法主管課に相談しました。
売主業者は、「再建築ができないということですが、隣地の使用承諾を取り付けたのは別の業者で、今はその業者は廃業してしまっているので連絡もつかず、どういった経緯があったかはわかりません。当社はこのような条例があること自体知りませんでした」と主張しました。
 
◎結論
行政庁は重要事項説明の義務違反を理由に、売主業者を21日間の業務停止処分としました。
重要事項説明書のトラブル1
 
◎アドバイス
 重要事項説明で説明すべき事項の主要なものとして、法令に基づく制限があり、地区計画の区域における市町村条例で定めた制限は、宅建業法施行令3条2号により、必ず説明しなければならない事項となっています。 地区計画や市条例の有無は、役所の所管課で調べればすぐにわかることであり、知らなかったでは済まされません。
隣地所有者の土地使用承諾などについても疑わしい点がありますが、少なくとも宅地面積が条例規制に適合しないため、建築ができないということを説明しなかった点で、売主業者には重要事項説明義務違反があるといえます。
不動産の利用制限に関しては、都市計画法、建築基準法をはじめ多くの法令があり、複雑であるとの印象が強いためか、調査説明を怠ることがあります。 かつて、このように多数の制限を調査することはできないと上告した事件がありましたが、最高裁は「宅地建物取引業者には業務上の注意義務があり、(原判決が不当であるとする上告人の)論旨は独自の見解に基づくものであり採用できない」として上告を棄却しました(最高裁判決昭和55年6月5日、判例時報978号43項)。
 
 

購入した土地の水道管が隣地を経由して敷設されていることを知らされなかった

◎事案の概要
買主Aさんは、媒介業者Xおよび売主側媒介業者Yの媒介により、売主Bさんから土地を購入し、そこに住居を建築して居住しました。
後日、隣地所有者Cさんが建替え事を行い、誤って水道管を破損させたところ、Aさん宅の水道が断水してしまい、この事態によってAさん宅の水道管が隣地を経由(横断)して引き込みされていることが判明し、隣地所有者Cさんから水道管の撤去を求められてしまいました。
売主側媒介業者Yが作成した重要事項説明書では、「飲用水の配管等の状況」欄には、接面道路から引き込むことができ、その負担金はなしとの記載がなされていました。
買主Aさんは、購入時に本件土地内に存した既設管が、隣地を経由しているものである旨の記載・説明がなかったことから、接面道路からの引込管であると信じて、建築に際してはこの既設管を利用していました。
そこで買主Aさんは、媒介業者X、Yに対して、「重要事項説明書には、前面道路の埋設本管から負担金なしで引ける旨が記載されており、また負担金の有無に関しても誤りがある」とし、重要事項の説明義務違反を理由に、隣地引込管の撤去費用、施設設備に関する負担金を含む水道工事費用として140万円の損害賠償を求めました。
一方、売主側媒介業者Yの言い分は、「水道については、売主Bさんによると、隣地を経由している引込管を利用してよいという話でしたので、このことは買主側媒介業者Xに説明したはずです。Xが買主Aさんに説明していなかったことに加え、Aさんが隣地所有者Cさんに一言の挨拶もせず、経由の承諾を得ないで使用したためトラブルになったのではないですか?」というものでした。
(※なお、買主側媒介業者Xは、担当した代表者死亡につき、当時の状況は不明とのことです)
 
◎結論 重要事項説明書のトラブル2
売主側媒介業者Yは、既設の引込管が隣地を経由して引き込まれている敷設状況の事実を知りながら、買主側媒介業者Xに口頭にて伝えたのみで、重要事項説明書には敷設状況および施設設備に関する負担金について重要事項の説明義務違反があります。
また買主側媒介業者Xも水道について独自の調査を行わず、また、その敷設状況の事実をYから聞きながら、買主Aさんに説明していないため、依頼者に対する責務を果たしておらず、Yと同じく重要事項の説明義務違反があります。
結局、媒介業者X、Yは水道工事費用相当額を買主Aさんに支払うことで和解しました。
 
◎アドバイス
本件は、売主側媒介業者が重要な事実を知りながら重要事項説明書に記載せず、しかも買主側媒介業者のみに口頭で伝えただけという不注意が紛争にまで発展したケースです。
複数の宅建業者が取引に関与する場合、宅建業法では全ての業者が買主に対してそれぞれの宅建取引主任者をして重要事項の説明を行うべきとされています。代表して1 人が説明を行うことはよくありますが、この場合であっても関与する全ての宅建業者、宅建取引主任者がその責任を負います。片方の業者に責任を押しつけることは許されません。
土地を購入する際には、水道管の敷設状況を調査したか、埋設本管から引き込む際の負担金の有無はどうか等、しっかりした説明を受けましょう。
 
 

購入した中古マンションに多額の滞納修繕積立金があることを説明してもらえなかった

◎事案の概要
買主Aさんは、媒介業者Xの媒介により、売主Bさんから中古マンションを購入しました。
重要事項説明書のトラブル3
購入に際し、Aさんは媒介業者Xから、売主Bさんには滞納している管理費や修繕積立金はないとの説明を受けました。
ところが購入後、そのマンション全体には多額の滞納修繕積立金があることが判明したのです。
マンションの管理組合理事長の話では、「滞納者に対して滞納修繕積立金の支払いを督促してはいますが、目前に迫っている大規模修繕に間に合わない場合には、結局他の区分所有者が立て替えて負担するか、あるいは今回の修繕工事を見送るしか方法はありません」とのことでした。
そこでAさんは、媒介業者Xに対し、もっとよく調査して正しい説明を受けていればこのようなマンションは購入しなかったとし、損害賠償を請求しました。「確かに売主Bさん自身には滞納修繕積立金はなかったけれど、実際には資産価値の少ないマンションを買わされたことになった」というのが買主Aさんの言い分です。
これに対し媒介業者Xは「売主Bさんの管理費、修繕積立金の額とその滞納の有無を管理組合に問い合わせて調査し、買主に説明をきちんと行いましたので、当社には重要事項説明義務違反はなく、損害賠償責任を負ういわれはありません」と主張しました。
 
◎結論
宅建業法第35条第1項第6号および施行規則第16条の2第6号では、「当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容およびすでに積み立てられている額」について、説明しなければならないと規定されています。
よって、媒介業者Xは瑕疵のある媒介であったことを認め、媒介手数料を返還することで買主Aさんと和解しました。
 
◎アドバイス
媒介業者には、重要事項説明をするにあたり、すでに現在積み立てられている修繕積立金の額を調査し、その額を説明する義務があります。
また、管理組合や管理会社に確認の上で、区分所有建物に関し修繕積立金等についての滞納があるときはその額を告げる義務があります(ただし、積立額は時間の経緯とともに変動するため、直前の決済期における額等、できる限り直近の数値について時点を明示して記載することとされています)。
中古マンションの購入を検討する際は、区分所有建物に関してだけでなく、マンション全体の滞納金の有無とその額を確認する必要もあるということです。重要事項説明時に媒介業者からこの説明がなされない場合は進んで媒介業者に尋ねて確認しましょう。
 
 
 

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